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800mm/F5.6 で撮る野鳥写真

 

 

この『 スペックから考える野鳥写真 』のカテゴリでは、系統立ててレンズの違いを説明するのではなく、ある程度個人的な思い入れで各スペックのレンズを使って感じたことを好き勝手に書いてみようと思います。

 

 

 

 

 筆者が初めて購入した大砲レンズは『 EF600mm F4L IS USM 』でした。野鳥の事も余り知らない段階で勢いだけで購入したのですが、野鳥に近づくことがとにかくできないくらい生態に関して無知な状態でしたので、常にテレコンを装着しカメラもAPS-Cセンサーのものを使用していました。『 EF600mm F4L IS USM 』にテレコンを使用すると開放F値ではシャープに写らないことが多く、『 EF800mm F5.6L IS USM 』が発表になったときはすぐに予約を入れて2008年5月末の発売日に入手しました。

 

ここ数年は撮りたいイメージが変わってきた事もあり使用頻度は減りつつありますが、それまではほぼ常にこのレンズで野鳥を撮影してきました。野鳥撮影のレンズ選び(大砲レンズ編)でも述べていますが、とにかく出会った野鳥をサッと撮るだけでそれなりのイメージになるので、初心者〜中級者の段階までは撮影が楽しくてしょうがないというレンズです。野鳥に近づくことなくある程度の大きさで撮れて更にシャープに写るのですから野鳥撮影でこれほどありがたいことはないと、発売当事130万円以上の出費をしてこのレンズを入手しましたが、後悔は微塵も無く、もうレンズのことで悩むことの無い終着点にたどり着いたような気持ちでいました。

 

ところが、ある程度野鳥の観察を続けたり、レンズのスペックの違いを理解すること+野鳥をどう表現するかということを考えると、このハチゴロだけでは野鳥写真の本当の面白さは味わえないと近年は考えが変わってきました。それらは他のスペックのレンズの記事を見てもらえるとある程度理解して頂けると思いますが、ここはハチゴロのカテゴリなので、他のレンズと比較して『 800mm/f5.6 』のスペックのレンズではどういう写真が撮れるのかと言うことを感じたままに書いてみる事にします。より特徴的なスペックである、200mm/f2 と 400mm/f2.8 の記事も合わせてお読み頂けるとレンズの違いがより深まると思います。

 

 

 

レンズスペックの基本ですが、大口径望遠レンズの違いを理解するのに極めて重要な、口径と描写角度を表にまとめてみました。

 

超望遠レンズの口径と描写角度
レンズ口径角度(水平)
800mm/F5.6142.8cm2°35'
600mm/F4.0150.0cm3°30'
500mm/F4.0125.0cm4°00'
400mm/F2.8142.8cm5°10'
300mm/F2.8107.1cm6°50'
200mm/F2.0100.0cm10°00'

 

超望遠レンズのスペックでの違いでは口径と描写角度を理解することが重要です。ここではシンプルに理解してもらうために光学構成はあえて考えから除外しています。口径は大きいほどピントが浅く・ボケ量が大きく・立体感が増すということに影響します。描写角度はそのまま文字どおりで、写る角度を意味しています。口径と描写角度、この2点がとにかく重要です。

 

ハチゴロというレンズは口径が『 142.8cm 』で、ロクヨンの『 150.0cm 』よりやや小さく、ヨンニッパと同じ、ゴーヨンよりやや大きいというサイズです。描写角度は『 2°35'』という事になります。ロクヨンとの比較では、口径が少し小さいのでピントの範囲・ボケ量・立体感はロクヨンより表現が乏しく、写る範囲は狭いので野鳥は 1.33(800÷600)×1.33(800÷600)= 1.77倍 の画素数で撮影できるということになります。ロクヨンとの比較では野鳥が大きく撮れピントの範囲が広いので、フレーミングは難しくなるがピントは合わせやすいということがスペックから考えるだけでも言えるでしょう。

 

 

 

それでは、この『 800mm F5.6 』スペックのレンズが野鳥撮影の実践における状況ではどういうレンズなのか作例をあげて感じたことをお話していきます。

 

 

800mmf/5.6 ミサゴ
※休耕田で伸びをするミサゴ。地上にいる猛禽類は見通しがよい事もありなかなか近づけないケースが多いが、800mmの焦点距離であれば警戒されない距離からある程度の大きさで撮影が可能。(画像クリックで拡大表示します)

 

 

 

800mmは一部例外を除いては、市販のレンズで最長の一眼レフ用超望遠レンズです。特に最新の光学設計のニコン『 AF-S 800mm f/5.6E FL ED VR 』は極めて優れたMTF値で、まさに遠くの被写体を手前に引き寄せるような効果を高解像ボディで使用してもきっちりと描写してくれます。

 

サンプルのミサゴは、休耕田で数羽が休んでいたところを車で極めてゆっくりと近づきましたが、やはり降りているときは警戒心が強く100mも寄らないうちにこの1羽を残して飛び去ってしまいました。この固体は経験の浅い幼鳥だったのかそこからある程度近づいても逃げませんでしたが、もうそろそろ危険だと思われる距離で車を停めて撮影を開始しました。それでも50メートルは離れていたと思いますが、D800Eの高解像ボディを使用してもきっちりと描写してくれるこの『 AF-S 800mm f/5.6E FL ED VR 』の性能は値段だけのことはあると感じた撮影になりました。特に近接の難しい猛禽類などの野鳥には 800mmF5.6 レンズは極めて頼もしい味方となってくれます。

 

 

 

 

 

800mmF5.6 バンの親子
※(少トリミング)池を移動するバンの親子に偶然遭遇。撮影チャンスは10秒程度しかなく撮影場所を移動する余裕は無かったが、遠方の被写体に対する解像力の高さでとりあえずシャッターを切るだけでもそれなりのイメージを得ることができる。(画像クリックで拡大表示します)

 

 

 

近づいたり、チャンスを待ったりする余裕が無く出会ったときがベストシーンということも野鳥撮影ではよくあります。800mmF5.6 レンズは被写体が遠くてもシャープに写るので出会った瞬間にその場からとりあえず撮影するだけでもイメージとして非常にまとめやすいです。

 

都市公園の池をぐるっと回っていると、不意に対岸からバンの親子が池を渡ってくるのが見えました。池の幅は数十メートルしかなく既に真ん中辺りまで来てるので撮影チャンスは10秒あるかないかという状況に出遭いました。ポジションを選んでいる暇はないのでとりあえず木や草が前被りにならないように数メートルだけ移動してすぐに撮影に入りました。親鳥と雛の並びを見ながらフレーミングを決めて連写します・・・10枚程度レリーズしたところで親子は茂みの中に消えてしまいもう出てきませんでした。その10枚の中から並びの一番よかったこのカットがサンプルに採用となりました。

 

 

 

 

 

800mmF5.6 ヘラサギ
※ヘラサギの嘴の形を強調するために、太陽がちょうど背景に入るポジションに移動しての撮影。どのような種類の野鳥でも良い背景を選ぼうとすると被写体との距離が離れてしまうケースがほとんどであるが、800mmの焦点距離があれば背景を選んでも大きく撮れるので画作りがしやすい。(画像クリックで拡大表示します)

 

 

 

被写体があまり動かない野鳥のとまりもの撮影あれば、本来は背景をある程度選べる状況になります。ただ、それでも歩道から外れることが出来なかったり、水辺の野鳥であれば岸から撮るしかないなど、移動できる場所が限られることが殆どなので、とまりものであっても実際には背景を選ぶというのはそう簡単ではありません。野鳥に一番近づけるポイントだと背景が煩くなり、背景がよい場所だと野鳥が遠くなる・・・こういうときには焦点距離の長いレンズがものをいいます。

 

サンプルのヘラサギは太陽が丁度背景に来る様にポジション移動して撮影したものですが、さすがに冬場に水の中に入る勇気は無いのでこれは岸からの撮影です。背景を選ぶような場所に移動してもある程度の大きさで野鳥が撮影できる・・・800mmレンズのありがたみを感じた1枚です。

 

 

 

 

 

800mmF5.6と500mmF4の違い
※ハチゴロとゴーヨン、それぞれのレンズの最短付近で撮影したルリビタキ。どちらもほぼ同じ大きさで野鳥が撮れているが、撮影距離の関係でハチゴロの方がピントが深くゴーヨンはピントが極めて浅い。(画像クリックで拡大表示します)

 

 

 

このルリビタキの2枚のサンプルは800mmのピントの合わせやすさを示した例です。ある程度近づいて撮影できるチャンスがある野鳥であれば、800mmより短いレンズで撮ることも十分可能です。ここではハチゴロとゴーヨンの最短距離付近で撮影したものを並べてみましたが、注目して頂きたいのはピントの浅さです。ルリビタキが殆ど同じ大きさで撮れていても、より近距離で撮影しているゴーヨンの方が極めてピントが浅いのがお分かり頂けると思います。

 

実際に撮影していても、このゴーヨンでの最短距離付近での撮影はピントが殆ど運に左右されるような状況で、何枚撮影しても微妙にピントが外れていてイメージとしてしっくり来なかったり、ルリビタキはちょっと動くだけでもすぐにピントがずれるので ONE SHOT よりも AIServo で撮らないとピント合わせが困難という状況でした。一方ハチゴロの方は、ゴーヨンの最短ほどピントが浅くないのでピンポイントでピントを合わせる必要がなくゾーンAFでおおよそ頭部にフォーカスエリアが当たっていればOKカットがかなり撮れているというものでした。

 

離れていても大きく撮れるというのは、ある程度近距離で撮影できる小鳥類であってもピント合わせのしやすさという点でハチゴロには大きなメリットがあります。ロクヨンやゴーヨンでも近づけは大きく撮れるし、F値が1段低い分感度も下げられる(or シャッタースピードを上げられる)ということはありますが、その分ピントの範囲がより狭くなるので、被写体が近ければ近いほど1点AFやマニュアルでしっかりとピントを追い込む必要がでてきます。もちろん小鳥類でも近づくのが難しい場合が多いのでハチゴロで遠くから大きく撮影するというのは、近づく必要性が低い、ピント合わせがしやすいという点を重ね合わせるとOKカットが撮れる確立は短いレンズで近づいて撮影するより格段に高くなるでしょう。

 

 

 

 

 

800mmF5.6 カワセミ
※木道を歩いているときに偶発的に遭遇したカワセミ。撮影ポジションを変更できない場所であったが、画角の狭さとボケ量の大きさで背景が単調になりやすくカワセミが小さく写っていても被写体が埋没することなくイメージとしてまとめることができた。(画像クリックで拡大表示します)

 

 

 

ハチゴロのピントの合わせやすさは前述のルリビタキのサンプルのとおりですが、画角の狭さによって背景をシンプルにまとめやすいという特徴もハチゴロにはあります。写る範囲が狭いということは背景が余り入らないので、実際にはゴチャゴチャした背景でもその一部分しか写らない事になります。さらに大口径レンズで背景は大きくぼかして、その上被写体をシャープに大きく写すのですから、余り深く考えずにシャッターを切っても野鳥のクローズアップ度は必然的に高い写真になりやすいのです。

 

 

 

ここまでのまとめとして、ハチゴロは野鳥撮影のレンズとしてのメリットは


@野鳥に近づく必要性が少ない(遠くてもシャープに写る)
Aピントが合わせやすい(野鳥が大きく撮れるのにピントが深い)
B背景がまとめやすい(写る範囲が狭い上に大きくボケる)

ということが上げられます。筆者が初心者にオススメする理由もここに集約されます。

 

 

 

デメリットはメリットをそのまま裏返した事になるのですが


@被写体に近づく努力を怠るようになる(近づいて撮る事にそもそも考えが及ばなくなる)
A質感・立体感に欠ける写真が増える(野鳥が大きい+ピントが深いことのマイナス面)
B背景が単調でどう撮っても同じような写真ばかりになる

 

という事が言えると思います。

 

 

 

 

 

 

  ハチゴロの飛翔写真
ハチゴロはF5.6の暗いレンズであるため、おおよそ飛翔写真には向かないと考えていらっしゃる方も多いと思います。筆者の経験からハチゴロでの動体撮影はどのようなものなのか気づいた事を簡潔に述べてみようと思います。

 

 

野鳥撮影でのヨンニッパ飛翔
※塒上空を旋回するハイイロチュウヒ。警戒心の強い野鳥であるほど800mmであれば撮影チャンスが大幅に増える。テレコン無しで長焦点距離を得られるので暗所でのピント追従速度の低下も影響が少ない。(画像クリックで拡大表示します)

 

 

 

ハチゴロはロクヨンやヨンニッパなどの短くF値の低いレンズに比べ、撮影角度の狭さからレンズの振りに対するフレーミングの動きが大きく被写体を捉え続けるのが困難です。シャッター速度も上げられないので決定的な動体シーンの撮影にはやはり不向きなレンズであることは間違いないでしょう。

 

ただ、ここでも被写体との撮影距離が問題になります。特に近接が難しい猛禽類などの被写体は、余程の条件が整わないかぎりロクヨンやヨンニッパではとても撮影できません。ハチゴロでの飛翔写真というのは、近づけないから仕方なく使うという消極的な理由であることが殆どです。それでも、離れたところから大きく撮れるというのは撮影チャンスが数十倍も増えますので、撮影チャンスの多さでよいシーンをモノにするという使い方が基本となるでしょう。

 

ヨンニッパでのコミミズクのサンプルを見ていただけると理解が深まると思いますが、口径がほぼ同じレンズであれば距離が離れるほどピントが深くなり、近くなるほど浅くなります。ハチゴロで更にAPS-C機を使い遠くの被写体を大きく撮ろうとすると、見かけ上はノートリで大きく撮れたとしても被写体の立体感が薄れるので質感や迫力が大きく損なわれます。やはり、相当の近接して一瞬のチャンスを狙ってより短いレンズで撮影する方が見る人への印象がまるで違ってくるでしょう。

 

また、カワセミのダイビングなど近づける可能性のある小さな被写体の動体撮影の場合は、フレーミングの難しさからハチゴロの選択は避けたほうがよい場合もあります。より動きが激しく近づける被写体であればあるほど短く明るいレンズでの撮影が望ましいです。これは完全に筆者の好みになりますが、ハチゴロで飛翔シーンを撮りたいと思うことは近年は余りなく、ハチゴロはとまりもので野鳥を大きくクローズアップしたい時に使うことが増えました。動体シーンを撮るならば被写体に寄れる状況になるようになってから、ようやく短いレンズを持ち出して撮影を開始する・・・ということが殆どです。

 

 

 

 

 

  ハチゴロのテレコン使用
ハチゴロは一部例外を除いて、市販されているレンズで最も焦点距離が長いのですが、最高クラスの光学性能を備えていることもありテレコンを使用して更に焦点距離を伸ばしても十二分に観賞に耐えうる画質を提供してくれます。作例とともに筆者のこれまでに感じてきたことをそのままにお伝えしようと思います。

 

800mmF5.6+1.4倍テレコン ニュウナイスズメ
※(少トリミング)子育て中のニュウナイスズメを遠くからそっと静かに撮影。テレコンを使用しても画質が良いので、営巣中のストレスがかかりやすい状況でも遠方から撮影できるメリットは大きい。ただ、繁殖期の野鳥は離れて撮影するしても短時間にとどめたほうがよいでしょう。(画像クリックで拡大表示します)

 

 

 

 

800mm+2倍テレコン
※(大トリミング)普段、肉眼ではおおよそ見ることが出来ない猛禽類の脚部を2倍テレコンを使って拡大撮影。APS-C機を使用し更にトリミングをしているが、十分に観賞に耐えうる画質を提供してくれる。(画像クリックで拡大表示します)

 

 

 

800mm/F5.6に2倍テレコンを使用するという撮影手法は殆どの方は余り選択肢に無いのが実情ではないでしょうか。ただ、筆者は近年この撮り方をする機会が増えてきました。今までに見たことが無いものを映像化できる面白みというのがこの800mm+2倍テレコンにはあるのです。

 

ただ、ここまで長い焦点距離で遠い被写体を撮ろうとすると大気の状態が大きく問題になります。どんなに光学性能がよくても空気が澄んでよどんでいない状態でなければ、きっちりとシャープには写りません。また、ピントやブレも異様にシビアになるので通常の撮影では考えられないようなところにまで気を遣う必要がでてきます。大気の状態は自然現象なので、ある程度撮れるタイミングを図る必要がありますが、ピントとブレはライブビュー機能を駆使することで多くの問題は解決できます。

 

 

 

 

 

  ハチゴロ・各モデルごとの筆者の独断的な評価

 

EF800mm F5.6L IS
筆者の少し前までのメインレンズ。遠くの被写体でもシャープに写るしテレコンを使ってAPS-C機を使用しても十分に満足できる画質を提供してくれます。

 

このレンズで一番注目したいのは光学性能が良いのは別として、フォーカスリミッターの設定が20m区切りであるところが極めて秀逸であると思います。森の中の撮影では『 6m-20m 』の設定に、猛禽類や水辺の近づけない被写体では『 20m-∞ 』の設定に切り替えることでAFを非常に高速で合わせることが出来ます。特に手前側『 6m-20m 』の設定は純正レンズではこのレンズしかできないので、このためだけに筆者はニコンの 800mm/f5.6 は使用候補から外れました。

 

 

 

AF-S 800mm f/5.6E FL ED VR
遠くの被写体をシャープに写すということに関しては、間違いなく最強のレンズです。2013年発売の新型レンズですが、軽量設計に関しては一世代古い感は否めず、手振れ補正の効果は抜群なのですがそれを差し引いても手持ち撮影は相当厳しい印象です。

 

フォーカスリミッターは『 Full 』と『 10m-∞ 』の切替しかなく、手前側の被写体に対しては全く意味が無い仕様であり更にニコンのカメラはフォーカスが遅いので筆者は使用候補から外れました。D4やD4sで使っても素晴らしい描写を得られますが、やはりD810やニコン1などの解像力の高いボディとの相性が非常によいように思います。付属の1.25倍テレコンを使っても画質の劣化を感じるのが難しいくらいなので、トリミング必須のような場面では積極的にテレコンを入れるのも一考です。

 

 

 

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