あなたの野鳥撮影におけるレンズ選びをサポート致します

レンズの焦点距離

 

 

レンズスペックについて最も基本となる、
焦点距離とF値についてお話します。長くなりますが、野鳥撮影のレンズ選びにおいて特に大事な項目が後半にでてきますので最後までしっかりとお読み下さい。

 

近づくのが難しい野鳥を大きく写すためには焦点距離が長いほうが良いですし、低いF値で、できるだけボケを生かしたり、低感度で画質を向上させたり、動きを止める高速シャッターを切ったりと野鳥撮影のレンズには極めて高い性能が求められます。

 

 

レンズの焦点距離を伸ばすと光のにじみがそれに伴って大きくなりシャープネスが失われるのですが、それを防ぐために特殊な低分散レンズ(UDレンズ、EDレンズ、蛍石レンズ等)という普通のレンズとは異なる素材を使用します。

 

これらの特殊低分散レンズは大きさに伴い価格が急激に上昇します。直径50mmの蛍石レンズは5万円程度ですが、200mmになると100万円を超えると言われています。レンズの大型化と精度を出すのが難しいため、超望遠レンズは非常に高価な機材となっています。

 

焦点距離とF値

 

 

メーカーが、市場のニーズと価格のバランスを考えて市販化している最大級のレンズが800mmF5.6、600mmF4、400mmF2.8などの直径約150mmを最大径とする超望遠レンズ群です。一部それ以上の最大径レンズを採用するものもありますが、価格、大きさ、重量面が極めて肥大化するために直径150mm程度がコスト的なバランスの限界なのだと思われます。

 

 

この直径150mmが市販レンズのほぼ限界ですので、直径150mmレンズ群の焦点距離の違いがどのように野鳥撮影に影響するかをサンプル画像で考察していきます。

 

サンプル@400mmと800mmサンプル@

 

上記サンプルは、撮影位置・カメラを変えずに焦点距離に2倍の差がある最大径が同じレンズを使用して撮影したものです。

 

焦点距離に2倍の差がありますので、写っている範囲(面積)は2の2乗で4倍の差があります。
では、次に400mmのサンプルを800mm相当に拡大して並べてみます。

 

サンプルA400mmと800mmのサンプルA

 

 

サンプルからどのような事がわかるでしょうか?
被写体・背景・機材の各間隔距離は同じという事に加え、レンズ最大径も同じものを使用した場合、レンズの焦点距離の違いについて以下のことがわかります

 

  • 背景のボケは殆ど同じである
  • 焦点距離で異なるのは写る範囲の違いである

 

これは、トリミングしてもセンサーの解像力を遥かに凌ぐ性能がレンズにあると想定すると、最大径が同じなら400mmレンズは800mmレンズと同じ写真が撮れる事を意味します。言い換えるとレンズは最大径の大きさで出せるボケ量や被写体の質感(立体感)が決まると言ってもいいでしょう。APS-Cセンサーを使用しても、被写体との距離が同じでレンズも同じなら、解像力はあがっても野鳥の質感(立体感)やボケ量は変化しません。

 

 

やはり生き生きとした野鳥の写真を撮るにはある程度距離を詰めなければ表現できないですし、距離が詰められないものをセンサーサイズなどで無理に拡大しようとしても、厚みの無い紙に書いてある鳥を写しているような表現になってしまいます。

 

サンプルB
カワセミまでの距離 上:約20m 下:約10m、どちらも元画像に対し画素数1/4の倍率でトリミング立体感のサンプル

 

 

サンプルC
※2013/10月追加。画像クリックで少し大きめの画像で見ることが出来ます。
立体感比較フルサイズ+700mmF5.6
立体感比較APS-S+800mmF5.6

 

 

質感・立体感の比較において、カワセミのサンプルは判りづらく追加サンプルを用意したいと思っていましたがようやく撮影のチャンスが訪れましたので追加サンプルを載せました。

 

上が『 フルサイズ + 700mmF5.6 (500mmF4 +1.4ex) 』、下が『 APS-C + 800mmF5.6 』で撮影したものですが、元画像のアオゲラがほぼ同じ大きさだったので同じ比率(元画素数×0.3程度)でトリミングしリサイズしたものです。両方とも野鳥がほぼ同じ大きさで撮れているのですが『 APS-C + 800mmF5.6 』の方が倍程度の遠距離から撮影していますので、それが質感・立体感という点でどういう違いをもたらすのかということに注目して頂きたいと思います。

 

注目して欲しいところは以下の3点です

  • 樹木の立体感
  • アオゲラの羽の質感
  • 背景のボケ方


樹木の立体感
フルサイズのサンプルでは樹木の手前側と奥側がややボケているのに対して、APS-C の方は樹木全面にピントが来ている感じがします。撮影距離が近いフルサイズの方が樹木の奥行きを深く感じられますが、APS-C の方は距離が遠いので樹木の丸みを殆ど感じることができず平面的なイメージになっています。

 

アオゲラの羽の質感
レンズの性能が高い事もあり、遠距離から撮影している APS-C の方でもしっかり羽毛の細かいところまで解像できているのがわかります。しかし、やはり近距離から撮影しているフルサイズ機の方が羽のふっくらした質感やアオゲラの体全体が丸みを帯びているような立体感が表現できています。遠距離から撮影している APS-C の方はアオゲラ自体がやはり紙に写っているような平面的なイメージです。

 

背景のボケ方
フルサイズの方は緑と光が複雑なボケを構成しているのに対して、APS-C の方は背景が単調なボケになっています。これは、画角が広いフルサイズのほうが多くの背景を写しているものの被写体との距離が近いためにボケが大きい描写になっているのに対して、 APS-C は画角が狭くて写る背景の範囲が少ないためにボケが単調であり複雑化しにくいという特徴があります。

 

口径は800mmの方が大きいので、同じ距離で撮れば800mmの方が質感・立体感も優れているのですが、やはりより近距離で撮影されたものに対してはレンズ性能だけでは質感・立体感が遠く及びません。距離が詰められないものを小さいセンサーサイズなどで拡大して撮影するということは、高性能レンズであれば解像はするものの質感・立体感は撮影距離が遠く拡大率が大きくなるほど損なわれます。

 

メーカーのカタログなどでは APS-C センサーのカメラはフルサイズ○○mm"相当"の画角になるという記載がありますが、その焦点距離の画角にはなるものの、質感や立体感・ボケ量は向上しないので『 相当 』という言葉が使われています。厳密に言うと写る範囲が変わるだけで焦点距離が伸びるワケではありませんので、このことは特にしっかりと理解しておきましょう。

 

 

 

最後に本題の焦点距離についてです。焦点距離は野鳥撮影において写す範囲の指針となります。焦点距離が長いほど視野が狭くなり鳥を大きく写せるので撮影は楽になりますが、落とし穴として背景の写る範囲も狭くなるという事があります。サンプル@の2枚では400mmのほうが木々の緑のイメージが出ていますが、800mmのほうは単なる緑のボケだけで単調な感じになります。アオゲラの2枚の追加サンプルにおいても同様です。単調な背景が良い場合もありますが、違いを理解しておくことは重要です。

 

 

野鳥にある程度の大きさと質感があり、背景に変化のある情景を入れようとすると口径が大きく短いレンズで近接しなければならず撮影難易度が跳ね上がります。ある程度撮影に慣れて大きく撮る事にマンネリを感じてきたら、このような写真を目指しても良いでしょう。

 

背景に変化をもたせる

 

 

まとめ

  • 野鳥の質感・背景のボケ量は、『 レンズの最大径 』 と 『 被写体との距離 』 で変わる
  • 焦点距離は写す範囲の指針。焦点距離が長いと野鳥を大きく写せる分、背景が単調になる
  • 市販レンズの最大径は約150mmまで。焦点距離次第でF値が変わるので、長さと明るさはトレードオフの関係にあり、両立したレンズは存在しない

 

 >>>> トップページへ戻る


sponsored link